2026年8月10日、
『地域で学校を育てる』出版記念オンライン対談会を開催しました。
当日は、『地域で学校を育てる』著者の塚本忠行さん、青森市立筒井小学校 の柴田美穂子校長をゲストにお迎えし、眞島香奈子が進行を務めました。
夜21時からの開催にもかかわらず、多くの皆さまにご参加いただきました。
今回の対談会で一緒に考えたのは、
「地域で学校を育てるとは、いったいどういうことなのか」
という問いです。
学校、地域、保護者。
立場が違えば、見える景色も違います。
誰かが「正解」を示すのではなく、それぞれの立場から経験や課題を持ち寄り、子どもたちを真ん中に置きながら一緒に考える90分となりました。
原点にあったのは「恩送り」
最初に塚本さんから、『地域で学校を育てる』を出版するに至った背景と、これまでの地域・学校との関わりについてお話しいただきました。
塚本さんの活動の原点にあるのは、ご自身と息子さんがかつて「学校という温かなコミュニティに救われた」経験です。
そこで受け取ったものを、当時の先生方に返すのではなく、今を生きる子どもたちや先生、地域へと送っていく。
塚本さんは、それを「恩送り」と表現されました。
地域の人が学校を外から支援するだけではなく、自分たち自身も学校をつくる一員になる。
そして、誰か一人が学校を大きく変えるのではなく、日々の小さな関わりを積み重ねていく。
そこには、本のタイトルである「地域で学校を育てる」につながる考え方がありました。

「成功事例」ではなく、試行錯誤している現在地から
続いて柴田校長から、青森市立筒井小学校での取り組みを、写真や資料を交えてご紹介いただきました。
柴田校長が大切にされていたのは、
「私たちもまだ試行錯誤中です。一緒に考えていきたい」
という姿勢でした。
完成された成功事例を紹介するのではなく、うまくいったことだけでなく、難しさや課題も含めて率直に語ってくださいました。
そして、『地域で学校を育てる』を読んで特に共感されたものとして、次の5つの視点が紹介されました。
- 学校を批判する場ではなく、建設的に提案する場に
- 関係人口を増やす
- 地道な活動が最強
- 「斜めの関係」の人がいる
- 学校はみんなでつくる
この5つが、その後のクロストークを深める大きな柱にもなりました。
「何をしてくれるの?」から「一緒に何ができる?」へ
「学校を批判する場ではなく、建設的に提案する場に」。
この言葉から、学校と地域の関係についての対話が始まりました。
学校に対して、
「なぜやってくれないのか」
「どうしてくれるのか」
と外側から求めるだけでは、学校と地域は「提供する側」と「受け取る側」になってしまいます。
一方で、同じ側に立って、
「では、一緒に何ができるだろう」
と考え始めると、見える景色が変わります。
塚本さんからは、PTAや地域団体など、もともと学校の周りに存在していた人たちが、それぞれ別方向を向くのではなく、「真ん中にいる子どもたちの方を向いて手をつないでいく」ことで関係が変わっていったというお話もありました。
「地道な活動が最強」
大きなイベントを一度開催することも大切です。
けれど、それだけでは関係は続きません。
柴田校長から紹介されたのは、保護者カフェやラジオ体操といった、とても日常的な取り組みでした。
コーヒーを飲みながら話す。
短い時間でも一緒に体を動かす。
顔を合わせる。
少しずつ知り合う。
そんな地道な活動が、人と人の横のつながりをつくり、「関係人口」を増やしていきます。
クロストークでは、さらに印象的な話が出ました。

「対話する前には、雑談ができなければいけない」
という言葉です。
いきなり深い対話はできません。
まず知り合う。
知り合うから雑談ができる。
雑談ができるから、やがて本当の対話ができる。
学校と地域の信頼関係は、会議室の中だけでつくられるものではなく、こうした日常の小さな接点から育っていくのかもしれません。
親でも先生でもない「斜めの関係」
柴田校長からは、教室に入りづらい子どもたちが過ごす場所を、地域の方々にも見守ってもらっているというお話がありました。
先生には言えないことを、地域の大人にはぽろっと話すことがある。
親でもない。
先生でもない。
けれど、自分のことを気にかけてくれている。
そんな「斜めの関係」にある大人の存在です。
子どもの周りにいる大人が増えることは、単に学校の人手を増やすという話だけではありません。
子ども自身が「話せる人」「頼れる人」「知っている大人」を地域の中に増やしていくことにもつながります。
学校も「助けて」と言っていい

柴田校長のお話の中で、もう一つ強く心に残った言葉があります。
「学校も助けてと言おう」
学校では毎日さまざまなことが起こります。
先生方だけですべてを抱え、「子どものためだから」と何でも学校だけで引き受けてしまえば、学校は疲弊していきます。
クロストークでも、学校運営協議会で良いアイデアが生まれても、それを実行する役割まですべて学校側に戻してしまえば、地域連携がかえって学校の負担を増やしてしまうという課題が語られました。
考える人と、実際に一緒に動く人。
その両方がいて初めて、「学校と地域が一緒につくる」という関係になるのだと思います。
「505人の子どもたちの応援団に」
柴田校長は、
「自分の子どもだけではなく、505人の子どもたちの応援団にみんなでなりましょう」
と日頃から伝えているそうです。
「自分の子」から「地域の子どもたち」へ。
学校は先生だけがつくる場所でも、保護者だけが支える場所でもありません。
地域に暮らす人、卒業生、さまざまな経験や得意分野を持つ人たちが、それぞれ無理のない形で関わる。
できる人が、できるときに、できることをする。
そんな関係人口が少しずつ増えていくことで、学校だけでなく、地域そのものも変わっていくのかもしれません。
明日からできること――「IOT」と「あいさつ」
対談の終盤、お二人に、
「地域と学校をつなぐために、明日から一つだけ始めるとしたら?」
と伺いました。
柴田校長から出てきたのが、
IOT――「いいと思ったら伝える」
という言葉でした。
先生に、
保護者に、
地域の人に、
「今日のあれ、よかったですね」
「ありがとう」
と思ったことを、そのまま言葉にして伝える。
特別な資格も、大きな仕組みも必要ありません。
塚本さんからは、
「返事があるかどうかは関係なく、まず挨拶を続ける」
というお話がありました。
顔を知る。
挨拶をする。
知り合う。
地域と学校をつなぐ最初の一歩は、そんな小さなところから始まるのかもしれません。
参加者の皆さまからも、次の一歩につながる声が
終了後のアンケートでも、
「関係人口を増やすためには地道な活動が大切だと感じた」
「学校が困っていることを発信していきたい」
「地域と学校がつながることで、先生も笑顔になり、子どもたちの幸せにつながると感じた」
「自分の地域でも、見える化をして関係人口を増やしていきたい」
といった趣旨の声が寄せられています。
また、今後さらに考えてみたいテーマとして、特に多く挙げられているのが、
「学校と地域の連携における課題」
そして
「子どもを真ん中に置いた学校づくり」
でした。
対談を聞いて終わるだけではなく、
「では、自分の学校や地域では何ができるだろう」
と、それぞれの場所に問いを持ち帰っていただけたことを、とてもうれしく感じています。
当日の質疑応答でも、現役の先生から「地域の方との関わりを、一度きりのゲストティーチャーで終わらせず、継続的なつながりにしていくにはどうしたらよいか」という具体的な問いが寄せられました。
まさに、今回の対談は「答えを聞く場」というより、次の問いが生まれる場になったのではないかと思います。
学校は、みんなでつくる
今回の対談を通して改めて感じたのは、
「地域で学校を育てる」ことには、一つの完成形があるわけではない
ということです。
学校も、地域も、保護者も、子どもたちも。
考え方が違うこともあれば、うまくいかないこともあります。
だからこそ、批判するだけではなく、話してみる。
困ったときには「助けて」と言ってみる。
いいと思ったら伝える。
挨拶をする。
顔を覚える。
できる人が、できることをする。
その一つひとつは、とても小さなことかもしれません。
でも、その地道な積み重ねの先に、
「学校はみんなでつくる」
という姿が生まれていくのだと思います。
ご登壇いただいた塚本さん、柴田美穂子校長、そして夜遅い時間にもかかわらずご参加くださった皆さま、本当にありがとうございました。
今回の時間が、
「自分の地域では、明日から何ができるだろう」
と考える小さなきっかけになればうれしく思います。
これからも、人と人がつながり、ともに考えられる場をつくっていきたいと思います。
書籍『地域で学校を育てる』について

今回の対談のきっかけとなった書籍
『地域で学校を育てる』 は、下記のフォームからご購入いただけます。
